アジア計算材料学コンソーシアムACCMSの発展 

第2回大会は、2003年に北京において清華大学担当で開催のはずであったが、相当進展していた準備の最中にSARS問題が発生し、開催不可能となった。役員会及び諮問委員会のメンバー間での電子メールによる膨大な議論の結果、急遽、ロシア科学院シベリア支部主催でノボシビルスクでの開催へと変更になった。急な変更にもよらず、14ヶ国から131名の参加を得て、大成功であった。隔年の趣旨を守るため、次年度の2005年に、SARSの終了した北京で第3回大会が開催され、その後は正常状態の定期的開催になっている。すでに、韓国ソウル市、ベトナム国ハノイ市、シンガポール国で成功裏に開催され、2013年にはタイ国の古都スラナリ市での第7回大会開催が決定している。これまでの会議の概要は表1に示した通りである。初期の予定通り、毎回200名程度の参加があるようになり、参加国数もアジアのほぼ全ての国を尽くし、さらに、欧米諸外国からも希望者の参加がある。従来から、欧米を中心とした理工学系国際会議の主たる参加者はアジア人であり、学術論文の著者も同様な現状に鑑み、アジア地区での国際会議開催は、研究者交流と知財確保の意味からも極めて重要である。
 第4回のソウルでは、ショートコースとして、初心者向けに材料設計シミュレーション入門や各種ソフトウェア利用のハンズオン・ショートコースが開始され、その後、定着した。我々のTOMBOは、ACCMSの標準ソフトウェアとして毎回ショートコースで取り上げられ、参加者から多大の興味を持たれる状態になった。特に、Windowsパソコンで直ぐに実行できるCDの配布は歓迎されている。その理由は2つある。一つは、パソコンのメモリー容量増大と高速化により、ある程度のシミュレーション計算が実行可能となったため、発展途上国でその活用が広まっていること。2つ目は、ショートコース用に端末装置を用意したりする手間暇が省略でき、聴講者に各自のパソコンを用意してもらうだけで直ぐにハンズオン講習が実現することである。また、スーパーコンピューターを利用した大規模シミュレーションに関するコースも開催し、やはり好評である。その理由は、国際コンピューターネットワークが高速化し、その場で本センターのスーパーコンピューターの威力を実感してもらうことが可能となったことにある。さらに、コンピューターメーカーやソフトウェアベンダーの展示も行われるようになった。発展途上国での会議開催においては、海外の国際会議への出張旅費が限られている若い研究者にとってこれらの情報提供が重要な意義を持つことを強く認識している。このように、後進の育成の意味でも、アジア地区における国際会議開催の意義は大きい。表1中で特に目を引く第5回のハノイ大会での参加国が30に上る理由は、ベトナム人研究者が多数欧米諸国で研究活動に当たっているからである。最近、特に中国での国際会議開催が頻繁に行われているが、参加してみるとほぼ全員が中国人であり、中国語で講演していることさえある。これは極端な例であるが、アジア地区での国際会議開催の一面でもある。欧米でポスドク研究員として下働き的に仕事をしていたのはアジア人で、その結果へのノーベル賞は雇用した側のみが受賞するという従来の研究のあり方が変わってきたことを如実に示す結果でもある。米国大学の理工系教授の多くがアジア人になりつつあり、単なる下請け業務担当ではない研究者が増大している現状は、今後さらに進展し、アジアで開催される国際会議へのこれらの研究者の参加は増大の一歩を辿るようになると思われる。
第3回大会において、ACCMSにおける計算機シミュレーションによる材料設計というテーマは広範にわたるため、より深い議論が可能な環境を提供することが必要であるとの議論があり、その実現方策として、ワーキンググループ(WG)を設定することになった。2006年に、第1回WG会議がナノ材料をテーマとして仙台と松島で開催され、80名ほどの参加者を得た。これは、原子クラスター関係で長年の歴史のある国際会議ISSPIC (International Symposium on Small Particles and Inorganic Clusters) の主要メンバー中の理論班という様相の会議であり、皆顔見知りで和気藹々と研究の進展の発表が行え、有意義な集まりであった。その後、シンガポールで水素貯蔵材料、済州島でナノデバイスシミュレーション、バンガロールでグラフェン等の2次元構造体と時宜にかなったテーマを絞り、各100名程度の参加者で親密な議論を行い、WGの有効性が明らかになっている。これらは、第1回目とは異なり、全くの新規メンバーの集まりを作り出した。2013年には台北市でエネルギー関連材料をテーマとした第5回目が準備中であり、今後、こうして形成されたWGのメンバー間の交流が盛んになり、継続的にWGが開催されることが期待される。 図2 2011年のシンガポールにおける第6回大会の集合写真。19ヶ国からの参加があり、地方色豊かな環境を堪能した。この写真からも若い研究者の元気な様子が分かり、ACCMSの将来に期待が持たれる。


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